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大阪市 住まいのガイドブック あんじゅ

花鳥画の心とIMA琳派(いまりんぱ)

日本画家重岡良子(しげおかよしこ)氏にきく

 

図1「喜雨滴る」

「大きな絵を描くにはどれくらいの時間がかかりますか?」日本画家 重岡良子氏に尋ねた。図1「喜雨滴る」は伝統的な花鳥画でありながら、画面中央の黒い縦のラインがモダンで印象的な作品である。草花が咲き誇り、葉やつるが複雑に入り混じっているさまは、植物の力強さを感じる。中でも丸々と実る西瓜は、日照り続きのあとに降る「喜雨」の恵みの賜物である。この作品は二曲一隻の屏風形式で仕立てられている。大きな画面に細密な花鳥を描くのは大変時間がかかるのではないかと思い、冒頭の質問に至った。  

 

重岡氏によると、本番用の紙に描き、色をのせるのはマラソンの最後のダッシュのようなもので、実はその前の過程が長く、大切だという。「まず写生をして体に覚えこませます。自分なりに消化して、自然をより理想の美しいものにするために色や形、その組み合わせについて草稿を練ります。ここで定着したものを紙に写し、絵の具を塗ります。一般的に想像される『絵を描いている』時間は最後の部分ですが、皆さんの想像する一年などというような、そう長い時間ではありません。」

 

花鳥画は花や虫・鳥などを描き、日本の四季のうつろいを写すもので、それを描く上で何よりも自然を見ることを重視していると語る。「花を描くときも家の庭で植物を育てて、毎日のかたちの変化を見ることを大切にしています。自然の植物は色々な形を見せてくれます。時にはこんな形になるの、と驚きながら、自然からいただくものを形にしようと思って描いています。」インタビュー中にも、アトリエの庭に2羽の目白が訪れて遊んでいた。

 

図2「ランプシェード」

写生に基づきつつ、装飾性を取り入れ、自由に画面を構成する重岡氏の画風は、京都で育まれた「琳派」を想起させ、「IMA琳派」として注目を集めている。琳派の意匠は着物や帯、器などのふだんの暮らしの中で使う生活道具にも派生していった。重岡氏もまた、生活道具であるランプシェード(図2)や桐の小箱など立体物にも描くことで、日本画を身近に感じてもらいたいという。

 

大阪くらしの今昔館では令和3年4月より「重岡良子 花鳥画展 刻を紡ぐ―写生から装飾 そして琳派を生きる―」を開催する。生活の中で楽しまれてきた自然の美と、それを写し取ってきた花鳥画の世界をじっくり感じてほしい。

服部麻衣(大阪くらしの今昔館学芸員)

 

展覧会の内容はこちら

企画展「重岡良子 花鳥画展 刻を紡ぐ 写生から装飾 そして琳派を生きる

令和3年4月17日(土)~6月13日(日)

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