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大阪市 住まいのガイドブック あんじゅ

大阪と浮世絵

ヒトの運命というのはわからないもので、関東生まれの私が、ここ大阪の地に住まうようになってから丸10年が経過した。
 

就職して最初の任地が岐阜、次が京都。京都勤務時代の途中から大阪に住まいを移し、任地はさらに和歌山、そして現在の大阪へと移ったが、和歌山勤務時代も含め、ずっと大阪に住み続けている。理由は「息がしやすかったから」だ。

 

最初は観光ガイドブック(!)や街歩きガイドなどを片手に、大阪の街を歩くことから始めた。そこで気づかされたのは、いかに自分がステレオタイプな(観光ガイドブック的な)大阪像を抱いていたかということ。情けない限りだ。

 

大阪で働くようになってからは「大阪にいるのだから大阪のことを勉強しよう」と思うようになった。敬愛する地理学の先生(2021年3月御退任)に街歩きに連れて行って頂いたことが、そのきっかけだ。
 

ところで私の専門は美術史学で、結構長い間、浮世絵について勉強をしている。というわけで情けないくらい短絡的に「上方浮世絵」を勉強しようと決めた。浮世絵と言えば江戸(東京)のもの、というイメージが強いが、元々、「風俗」を描いた絵画としては上方が先。
 

版画の製作、流通においては江戸に遅れをとるが、それでも18世紀からは歌舞伎俳優を描いた役者絵や、それに少し遅れて、大阪風景を描いた名所絵も刊行され始めている。
 

そんな時、幕末に刊行された名所絵シリーズ「浪花百景」の一図を用いたポスターを発見(『新修大阪市史』)、現代の大阪でもよく知られたビジュアルなのだと知り嬉しくなった。細々とではあるが、現在も上方浮世絵の勉強を続けている。

 

『新修大阪市史 史料編第七巻』ポスター
(大阪市立中央図書館大阪市史編纂所)/
(大阪市立中央図書館にて撮影)

そんな上方浮世絵の中でお気に入りの作品を一つ紹介しよう。
上方浮世絵を代表する絵師・長谷川貞信(1809-79)描く「浪花自慢名物尽」から「天満大根」。
 

長谷川貞信
「浪花自慢名物尽 天満大根」
国立国会図書館蔵

このシリーズは10図より成り、他に「福本(ふくもと)すし」「駿河屋煉羊羹(するがやねりようかん)」「玉露堂扇(ぎょくろどうおうぎ)」「淀川鯉」などがある。
天満の白大根は、天王寺蕪(てんのうじかぶら)や毛馬胡瓜(けまきゅうり)、玉造黒門越瓜(たまつくりくろもんしろうり)などと共に、なにわの伝統野菜として有名で、文久3年(1863)刊行の『大坂産物名物大略』に、大坂名物として掲載されている。
このうち、毛馬の胡瓜や玉造黒門越瓜などは絶滅の危機に瀕していたが、近年、復活の兆しを見せている。

 

と書いていたら、越瓜の復活を目指した「玉造黒門越瓜“ツルつなぎ”プロジェクト」の皆さんの笑顔が浮かんだ。どうやら私もようやく、大阪の街に馴染んできたらしい。

 

 菅原 真弓(大阪市立大学文学部教授)

 

 

※大阪を描いた名所絵は、大阪府立図書館サイト(「錦絵にみる大阪の風景」)から見ることができる。

https://www.library.pref.osaka.jp/site/oec/nishikie-index.html