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大阪市 住まいのガイドブック あんじゅ

長屋を愉しむ。長屋を継承する。

 古い長屋をリノベーションした住まいや店舗をまちでよく見かけるようになりました。第9回大阪市ハウジングデザインシンポジウムでは、ともに建築家である魚谷繁礼氏と吉永規夫氏から、長屋改修の事例を数多く紹介いただきました。長屋が抱える問題にも向き合いながら、その魅力や可能性とこれからの都市居住について考えました。

 

第9回
大阪市ハウジングデザインシンポジウム

令和5年2月25日(土)13:00~16:00

開催場所:
大阪市立住まい情報センター3階ホール

同時開催:
第35回大阪市ハウジングデザイン賞表彰式

 

100年先を想像した改修で路地と長屋を継承する

魚谷 繁礼 (うおやしげのり)さん
兵庫県出身。建築家、魚谷繁礼建築研究所代表。2020年より京都工芸繊維大学特任教授。2022年『関西建築家大賞』を受賞。京都を拠点に、これまで100軒を越える町家や長屋の改修に携わる。

 京都と大阪、それぞれの長屋とは

  長屋や町家の定義にはいろいろな考え方があり、人や地域によっても異なります。京都市が制定した「京都市京町家の保全及び継承に関する条例」(京町家条例)では、〈昭和25年以前に建築された木造建築物で、伝統的な構造及び都市生活の中から生み出された形態又は意匠を有するもの〉を京町家と定義しています。

 

 京町家には表通りに面した立派な造りの商家、祇園や上七軒のお茶屋など、様々なタイプがあります。中でも特に多いのが、表通りから入った路地奥にある居住専用の連棟長屋です。

 

 京都で長屋と言えばこのタイプですが、大阪では戸建てに対して連棟の住居を長屋と呼ぶことが多いようです。京都の旧市街にある路地沿いに長屋が残っていますが、多くが老朽化し崩れかかった状態にあります。

 

 町家の中でも数が多い路地奥の長屋を残すことが、京都の町家を残すことだと考えています。老朽化した長屋を改修し残すことで、路地を含む地割りの保全や安易なマンション建設の抑制にもつながります。

 

 また、建築基準法の現行基準には適合しない(既存不適格)長屋は、設計者と施主が話し合い、安全性に配慮したうえで、比較的自由度の高い改修設計を考えられるのも魅力の一つです。路地奥は再建築不可なことも多く、都市居住という視点からは、中心市街地に比較的安く居住できる可能性があると言えます。

 

 

 

長屋改修で都市の問題にも触れる

  これまで、住宅や店舗、宿泊施設、シェアハウスなど様々なタイプの長屋改修に携わってきました。ある4軒長屋の改修では事業者とともに、路地再生に取り組みました。路地の奥は車が入って来ないうえ、誰でも気軽に出入りできる場所でもありません。比較的安全な場所で、住民みんなで子どもを育てる路地と長屋をつくりました。

 

 居住する家と生活空間が密接している長屋を宿泊施設に改修したプロジェクトでは、共有スペースをつくりました。今では、宿泊客と居住している子どもが交流することもあるそうです。宿泊施設や店舗への改修においても、50年先、100年先には誰かが暮らしを営んでいるかもしれないと、ずっと先の未来を想像しながら設計に取り組んでいます。

 

みんなで子育てできる長屋を目指した晒屋町の長屋群(提供:魚谷繁礼氏)

 

  現在、私は改修した長屋で暮らしています。改修前は水平な床も柱も無く、瓦葺きがビニールシート葺きになっているような状態でした。改修後10年ほど経ちましたがとても快適で気持ちよく、楽しく暮らしています。土壁は傷んでいても崩して再利用できるなど、伝統的な方法で建てられた木造建築は再生に適しています。どれだけボロボロで腐朽していても長屋は健全化できます。大阪に多く残っている戦前の長屋も、再生が可能です。

 

自宅として3軒長屋を改修した。室内から路地を一望できる(提供:魚谷繁礼氏)

 

 長屋改修には、建物を残すだけではなく、景観の保全、伝統技術の継承、空き家活用、地域再生など、都市が抱える問題にも関わっていけるポテンシャルがあります。京都の路地は都市空間に奥行きをもたらしています。しかし、その路地は消えていきつつあり、長屋とともにどうにか残したいという思いで長屋改修に携わっています。

 

多様な使い方が生まれる良し長屋にアップデート

吉永 規夫(よしながのりお) さん
大阪府出身。建築家、Office for Environment  Architecture。林寺2丁目長屋で第34回大阪市ハウジングデザイン賞特別賞受賞。大阪公立大学大学院・摂南大学非常勤講師。2014年から大阪長屋の改修を継続して行う。

 

 戦前に建てられた平家の2軒長屋を自分達で改修し、アトリエと住居として使っています。きっかけは、隣に住む当時75歳のおばあさんでした。

 

 空き家のままよりも誰かが住むだけで安心感があると言われ、2007年から暮らしています。生活音が筒抜けで、冬はとても寒い長屋でした。

 

 2014年、結婚を機に「よし!ながや!!」と思い立ち、妻や友人と一緒に長屋改修を始めました。自分達で改修をして驚いたのは、屋根裏に隣との境となる境壁がなかったことです。

 

 改修では天井に断熱材を入れたり、壁をしっかり作って音対策としました。結果的に温熱環境が向上し、暮らしやすい長屋にアップデートできました。

 

 第34回大阪市ハウジングデザイン賞特別賞をいただいた林寺2丁目長屋は、2020年に改修を終えた5軒長屋です。空き家になった状態で親から引き継いだオーナーから、いつかまた一斉に空室になるのではと不安だと相談を受けました。

 

 そこで、5軒同時に同じ方法で改修するのではなく、賃貸住人のニーズに応じて1軒ずつ設計・工事を行う方法を提案。結果として、家族、単身者、カップルなど多様な人が暮らす個性的な長屋が展開できました。

 

 「ヨシナガヤ011」林寺2丁目長屋(提供:吉永規夫氏)

  

 大阪の長屋は狭くて小さいものが多いですが、裏庭や路地があり快適な都市居住ができる豊かな環境が残っています。
良い長屋にリノベーションすることで住宅だけでなく、店舗や事務所、公共空間など多様な使い方、楽しみ方が広がります。
今後も、「ヨシナガヤ」に取り組みながら長屋の面白さを伝えていきたいです。