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大阪市 住まいのガイドブック あんじゅ

パネルディスカッション

登壇者(左から)

吉永規夫さん
髙田光雄さん
魚谷繁礼さん
神前あゆみ(大阪市立住まい情報センター相談担当)
深田智恵子(大阪くらしの今昔館学芸員)

 

「長屋から考えるこれからの都市居住」

 

  •  髙田 魚谷さんや、吉永さんの長屋改修事例について、学芸員の視点から深田さんは何を感じましたか。
     
  • 深田 空堀や中崎町の長屋が注目された20年ほど前の改修は、外観だけを残し、内部は原型を留めない大胆で奇抜なものが多かった印象があります。もともと住まいとして使われていた長屋は、人が住む形で残していくのが理想だと思います。お二人は長く後世に残すことを考えた改修を手掛けておられるので心強く感じました。

 

  • 魚谷 伝統的な木造建築は次に繋いでいくことが非常にやりやすい構造になっており、そのことを活かして後世に残したいと思っています。
     
  • 吉永 長屋は住まいとしても、住まい兼店舗や事務所など組み合わせた使い方もしやすい。大阪という都市に住みながら、いろんなことができる可能性があります。
     
  • 髙田 神前さんは、長屋に関する相談をたくさん受けておられますね。
     
  • 神前 耐震性が足りないなど、切羽詰まった相談内容が多いです。悩んでいる方に、何をどうお伝えするべきかをずっと考えています。維持できないから解体するというのを、私たちが止めることはできません。
     
  • 髙田 吉永さんなら、解体したいという人にどうやってリノベーションを提案しますか?
     
  • 吉永 どの長屋も面白いので、見せてもらって、しっかりと議論します。大家さんが少しでも建物に愛情を持っていれば、あの手この手でなんとかしたいです。
     
  • 魚谷 この場にいる皆さんは、長屋や建物に対して愛着があるが、一般的にはそうでない人も多い。長屋の良さを周知できる展覧会やシンポジウムはいい機会だと思います。どんなにボロボロでも健全化できるというのを、僕も吉永さんもやってきているので、事例として紹介し続けたいですね。
     
  • 吉永 長屋は本当に面白い。日本の住宅寿命が30年と言われる中で、戦前長屋は築80年を迎えています。リノベーションなど少し手を加えるだけで、あと数十年は使えると思います。大阪の都市居住として長屋を長く使えるものにしていきたいです。
     
  • 髙田 大阪には江戸時代から昭和戦前まで「裸貸」という世界に誇るハウジングシステムがありました。借家でも個別ニーズに対応した内装を店子が調達できるシステムを、私は再生したいと考えています。都市居住において、借りて住むという住まい方の将来性をどう考えますか?
     
  • 吉永 持ち家が必ずしも正解ではないと考えます。大阪という都市で借りられて、自由にカスタマイズできる(場合もある)のが木造建築の長屋の魅力だと思います。台風や地震など災害が多い国で長屋を維持管理するのは難しい。でも、長屋に限らず、住まいや建物に愛着をもって、日頃からメンテナンスのことも考えていくことが大切だと思います。
     
  • 魚谷 借りるのも買うのも暮らしは変わらないと思います。買うと子孫には土地・建物とともに相続税も残ります。これまで、都市に住む楽しさは、最先端に触れることだったかもしれませんが、今後は歴史や地域性を楽しむことに向いていくのではないでしょうか。歴史を含めたその場所らしさを、無理せず楽しみながら暮らしていく。そうやって長屋を継承していくことが、将来の都市居住にとって重要だと考えています。
     
  • 髙田 建築家、学芸員、住まいの相談員という珍しい組み合わせで有意義な議論ができました。ありがとうございました。

 


コーディネーター


髙田 光雄 さん
博士(工学)。一級建築士。 京都美術工芸大学教授/京都大学名誉教授。大阪市ハウジングデザイン賞選考有識者会議座長。
居住文化を育む住まい・まちづくりの実践的研究を継続している。