ページの先頭へ

10周年記念シンポジウム~リレートーク②~

投稿日 2009年11月23日(月)
更新日 2009年11月23日(月)

 リレートーク② 
「自分で学んで豊かな住まいと暮らし セミナー・イベント活用術」
  コーディネーター:弘本由香里(大阪ガス㈱エネルギー・文化研究所 客員研究員)

パネラー:
鈴森素子(NPO法人 住宅長期保証支援センター 専務理事)
猪股 豊(社団法人 大阪府宅地建物取引業協会 研修学院委員会常任委員)
川幡 祐子(住まい情報センター住まいまちづくりネットワーク担当主任)
 
弘本:ここではセミナー・イベントをどんな形で活用し、私たちはどう知恵を育んでいけばいいのか?と言うお話を最前線の方たちからいただきますが、その背景を少しだけお話をします。先ほどの相談のお話でも、現場の最前線の専門家の皆さんが語られていたように、住まいを購入した時点でものごとは解決する、あるいは終わるという時代ではなくなっていると言うことですね。人生も長くなりましたし、いまある住宅をうまく長く使いこなして、住みこなしていくことが求められる時代になっています。
 
 その中で、私たちはトラブルが起きてからあわてて何かをするということではなくて、むしろ日々の暮らしの中で日常的にずっと住まいのことをウォッチしながら、そして学習しながら自分たちの知恵を膨らませながら、自分の将来の暮らしに備えていくということを日々やっていかなくてはいけない。そういう時代に入っているんだなと、相談の事例や相談の活動内容をお聞きしながら再度確認させていただいたように思います。そうした中で必要になってくるのが、セミナーやイベントといった普及啓発の取り組みになるわけですね。
 
先ほどのそれぞれの団体の皆さんも相談事業だけではなくて、相談と並行して、セミナー学習やその他交流事業などの学習をたくさんなさっているわけですね。それはまさに、生涯を通して住むことを豊かにしていく、住むまちを豊かにしていく、私たち自らが学んでいかなくてはいけない、そういうことのサポートを実践されているんだいうふうに思っています。ということで、現場最前線の声をお聞かせいただければと思っております。
 
 パネラーの皆さんはセミナー・イベントに取り組んでいらっしゃるわけですけれども、今の世の中の住宅と住まい方や住環境を巡るいろんな問題に応えていくためのエッセンスが、セミナーやイベントといった普及啓発の取り組みの中には詰まっていると思います。そんな取り組みの中に見えてくる特長はどのようなものですか。どんなニーズを反映していて、将来に向けて、どんなふうに生活者とともに考えていかれようとしているのか。実態をもとにしながらそれぞれお話をお聞かせいただければと思っております。
 
川幡:まず、住まい情報センターで実施するセミナーは、平成20年度には3200名ほどのご参加、年あたり50~60件を実施しています。推移は、若干減った時期もありましたが、最近盛り返している状況です。内容は、ニーズに応じて年々変わってきています。
 現在の状況を大まかに説明しますと、まず「なるほどセミナー」というものでは、住まいの基礎的な知識を習得するセミナーを行っています。家を買ったり・借りたり・建て替えたりという時に、基本的にこれは絶対知っておいて欲しいなというセミナーです。これは毎年同じ内容を、繰り返しやっているものも多いです。
 ただそういうものだけやっていてもなかなかニーズに対応しきれないということで、より高度な情報を提供したりということで開始したのが、タイアップ事業です(平成18年度創設)。今日のパネラーの専門家団体さんなどとも一緒のやらせてもらっていますが、たとえば「省エネ対策」「高齢者住宅の選び方」というように、より専門的な情報のセミナーをやっています。私どもだけではやはり力不足なので、団体さんと協働実施しています。
 
それからもうひとつは、そういう住宅のノウハウとは違うのですが、将来の大阪のまちや住環境を考えるために、少し知識として知っておいてもらうと楽しいよ!というのをやっています。これは不定期であまり回数は多くないですが、「住まいの大阪学」と題して例えば景観やまちの歴史を考えるといったものを実施しています。年を追ってニーズも変化しているので、それにあわせてセミナーやイベントの内容も変化させてきています。
セミナーの評価を事後にアンケートをしてみていますが、この結果をセミナーに反映していくことも大事です。
 
セミナーの手法の経年変化ですが、年を追うごとに講演会のみのセミナーの比率が縮小し、講演会と相談会や交流会の組み合わせのイベント、ワークショップや見学会などの参加型イベントの占める割合が拡大しています。
 
セミナーの評価(満足度)とセミナーの手法の関係をみると、講演会単独よりも、ワークショップや見学会を実施したほうが、満足度が高いという結果になっています。普通セミナーの中身が良かったら満足度が高いというのは当然なので、何となく推察できるんですが、このようにワークショップや見学会が、何で満足度が高いのかなって考えた場合に、「楽しく学べる」というのがひとつあると思います。また、自ら考えて、手を動かすという場になりますので、それが結果的により習得できるという意識が参加者に多くなり、満足度が高くなるのかなと推察します。
 この10年間で、セミナーの特徴としては、内容が豊富になったということと、手法も多様化してきているということです。
 
弘本:リレートーク1(相談)でもコミュニケーションの話がでてきましたが、手法が多様化することで、コミュニケーションのチャンネルも増え、コミュニケーションという意味においても満足があるのかなと思いました。また、参加者自身の主体性が引き出されるところにも、意味があると感じました。
 
鈴森:私どもは、NPOの業務としてセミナーをやっているわけではなくて、ボランティア活動のひとつとして実施していますので、単独開催というのはほとんどない状況です。初期の頃はセミナー開催は座学といいましょうか、「こういうことを気をつけましょう」「家づくりは、こういうことをやりましょう」ということをやってきてたんですが、やはり体験をしていただくと言うことが一番ご理解が早いんじゃないか、あるいは長くその方の記憶にもとどめられるんじゃないか、ということで見学会や体験会もあわせて実施しています(大阪市立阿倍野防災センターにおける地震体験のできる「起震車」体験の事例を紹介)。また、個別相談会もさせていただいています。
 
 
 
 
 
 
 
<ワークショップ形式で行った省エネセミナーの事例紹介>
「快適!省エネ 住まいの工夫」2008年8月23日実施
 
   住宅内の温熱環境を快適にするために、どのような対策が考えられるか。参加者が自分たちで実験しながら、実証するワークショップ形式のセミナーを開催しました。
 
 
 
 
 
<建物の劣化状況を見学し、劣化診断と対策を学んだセミナーの事例紹介>
「住宅の補修と勘どころ」2008年11月22日実施
 
 岸和田市にある築40年の住宅を借りて、雨漏りの状況、シロアリの通り道(蟻道)など建物の劣化が目視でわかるところみていただき、劣化の改修方法をセミナーで学んでいただきました。
 
 
 
 
 
弘本:情報というと、ともするとデジタル情報を思い浮かべますし、どうしても受身的に情報を得るような感覚に陥りがちですが、実はこういうなまの現物に触れて、体で学んでいくというのが一番説得力を持っていくという大切なご指摘をいただきました。
 
猪股:私どもは、大阪府下8400社の不動産の業者の団体です。今までは相談コーナーや似た類の方法でご相談を承ってきました。ただ相談というよりも、不動産業者に対するクレームが大半なんですね。不動産屋って、怖いとか、火曜サスペンスでも不動産屋さんは大体悪モンになっています(笑)。私どもは、顧客に対する相談もやっていますが、業者の団体ですので、不動産業者の指導、不動産業者の団体として勉強をしています。勉強をしていけば、少しでもクレームが減らせるのではないかと感じ、今までそういう活動をしてきました。
 
しかし、情報クレームといういうものがあります。その根本というのは、私どもが情報を的確に伝えていかないとだめだし、そういう意味では一般の市民の方々に、問題点を伝えていかないと駄目なんじゃないのというところに、残念ながらやっと気づいたという感じでございます。
 
そういう問題意識で、2009年1月31日には「住まい大学」、2月28日にはタイアップ事業として住まい情報センターと連携し「実例でみる不動産の選び方」というセミナーと相談会をします。不動産広告・現地の見方、重要事項説明について、トラブル事例などをもとに説明します。
 
重要事項説明は、この不動産はどういうものだ?ということを、私たちの口から説明するものです。しかし、難しい言葉で説明して、相手にもわかったような気にさせて、本当に納得してもらっていない、本当に伝わっていないのに、契約をして前に進んでいいのか?というのが、私どものこれからの課題だと思っています。
 
また宅建協会内では会員向けに年に三回、全体の研修会をやっっています。今日も何名か来ていただいていますが、インストラクターを養成しています。インストラクターがいろんなところに出かけていって不動産に関して「こういうところを気をつけてくださいよ。」というようなことをやって行きたいなと思っています。
というのは、私どもは業界団体ですので、「こういうやつは気をつけよ!」とか「こういう業者は危ないで!」と言っても、私たちは大丈夫ですので、そこは反対に伝えていかないといけないだろうと思っています。
 
セミナーや相談の中身は、非常に時代を反映します。去年は、敷金が問題になって、例えば「このお金返してくれないのですか?」というような相談を受けました。私どもとしては例えば、賃貸管理を請け負っている場合もありますので、その場合には情報を集めて、家主に対して「現段階で、消費者契約法という新しい法律ができ、判例が出たことによって、今の状況ではこういう判断になります」ということを伝える必要があります。
 
弘本:当事者団体の方だからこそいえる、市民にとってはとても魅力的なありがたい情報提供や相談をなさっているなと思ってお聞きしました。特に相談で受けた問題点を(相談は基本的に個人として相談に来られるケースが多いわけですが)、個人の問題を社会の問題として捕らえなおして、もう一度セミナーにして社会に返していくという、循環させていくということを、団体として取り組まれているのは、大変にすばらしいお取り組みだと思います。
 
さて、今皆さんからそれぞれこれまでにずっと取り組んでいらっしゃった、セミナー等の背景にある意味合いや、現場からの生の反応というようなことを本当に短い時間でお話いただいたきました。あらためて今後どんなことをさらに取り組んでいかれようとしているのか、またどんな工夫を加えていかれようとしているのか、目指すところについてお話をいただければと思います。
 
 
 
川幡:団体さんと協働でイベントを実施する前に、どういうふうにわかりやすくするか、その工夫点を話し合います。しかし、話し合う前提としていいセミナーってどんなもんかなということを考えながらやらないと、なかなかポイントが絞れないと思います。最近「○○をよくする8つの方法」というようなタイトルで指南書がありますが、いいセミナーの6つのポイントを考えてみました。
 
まず1つ目は、「どういうことをしゃべりたいかのポイントを絞り込むこと」。当たり前ですが、実際にセミナーをやって結局何がしゃべりたかったのか?よくわからなかった、盛り込みすぎて参加者が消化不良をおこされたということがあります。2時間、3時間という限られた時間内でしゃべろうとすると、やはりポイントを絞ってもらわないといけない、と思います。
2つ目は、文章や文字だけで見せるのではなくて、画像を使う、あるいはワークショップ等の手法を工夫するなど、いろんな媒体を使って工夫をするということが、お客さんにわかりやすくなると思います。
3つ目は、建築というものはハコという現物を建てていくということなので、具体的に事例が示されている、盛り込まれているということもすごく大事だということです。
4つ目として、先ほど消費者契約法が新しくできたという話がありましたが、住宅の制度は日々新らしくなっています。「情報が最新である」ということも大事です。最新でないと間違ったことを伝えたり、あるいは消費者にお得な情報を十分に伝えられないと言うことになります。常に新しい制度をチェックいただきたい。
5つ目として、先ほどアンケートでの参加者の評価(満足度)を紹介しましたが、「顧客の意見を取り入れている」と言うことです。私どものセンターで実施したものについては、必ずアンケートをとって、たとえ辛口であっても必ず主催者に見せています。満足度の高いセミナーを実施されているところの方が、アンケート結果をとても気にされるんですね。必ずそれを見せてください、とおっしゃいます。アンケート結果から、参加者がどういうことを聞きたいのか、自分のやったセミナーのどこがわからなかったのか、きちんと把握して、次のセミナーにもつなげていってほしいと思います。
6つ目は自社の宣伝をしないということです。NPOや専門家団体のなかには、いろんな会社や事業者が集まっている団体もあります。ですから、こちらのセミナーではないのですが、結果として会社の宣伝に直接つながるような表現をするセミナーも世間にはあります。もちろん、団体を立ち上げた趣旨は社会貢献であっても、全く非営利で行うとなると、運営もできず、団体の継続自体が難しいということにもなります。したがって、将来的には顧客獲得につなげていきたいという意向は当然と思います。しかし、センターの性格からすると少なくとも私どもとのセミナーでは直接的な自社宣伝をしてもらっては困ります。
また、他社の悪口を言うということもして欲しくない。それは、倫理的な点もそうなんですが、それをやったとたんに、「○○はよくない、自社がいいですよ」って参加者に伝えた途端に、参加者は「ああ、あそこはだめで、そこがいいいんか!」と思って思考が停止してしまうこともあるかもしれない。お客さんが他の情報は吸収しなくてもいいなと錯覚してしまうんですね。そうではなくて、消費者はいろんな情報を取ってそこから自分で選択するということが大事だと思います。
 
タイアップ事業はというと、ほとんど団体さんが企画をしてつくってもらっているので、えらそうなことは言えないのですが、そういうふうに一緒に作ってもらったらいいなと言うことを日々お話して、セミナーの工夫をしているところです。
 
センターとして、今後どういうことをしていきたいかですが、出前講座をしていきたい。地域に出向いて地域で講座をしていきたいなと思っております。というのは、先ほども高齢者の相談が増えているという話がありました。高齢者の方と言うのは、ここ天六まで出向いてセミナーを聞くというのがなかなか難しいと考えます。そういう方向けにお住まいになっている地域に出かけていってセミナーをやりたいなということを考えています。
住宅というのは地域にくっついているというか、地域にあるものなので、その地域の住宅のことやまちのことは、きっとそこに住んでいる人や工務店が一番知っていると思うんですね。そこに出向くことによって、セミナーの実施団体が、地域の人や専門家と新たに連携できると考えています。そういう理由で、ぜひこれから出前講座もやりたいなと思っていろんな団体さんに声をかけているところです。
 
 
弘本:この6つのポイントは、タイアップ事業を進めるなかで練り上げられてきたと思います。セミナーやイベントを通じて、中立性や信頼性をどんなふうに私たちが作り上げていったら良いのかを考える機会を与えてもらっているということでも、タイアップ事業をはじめ普及啓発活動の成果があると感じました。
 
鈴森:さきほど猪股さんから、不動産業界があまり信頼を得てないというお話がありましたが、工務店業界・リフォーム業界もなかなか信頼を得てないというのが現状です。そんな中で私どもはできるだけ、セミナーをやる時は、構成会員に講師をやってもらおうと考えています。会員は、リフォームショップ、大工、工務店、建築士などで構成されています。そういう方にボランティア活動というものが、どういうものか。自分が日ごろしている営業活動とは違うことを体験していただくと同時に、セミナーで得たことは自分達にとっても、将来の事業の参考になるはずなんです。ですので私どもでは、これまで人前でしゃべったことないよというような大工さんにも、二級建築士しかもっていない工務店の社長にもしゃべってもらいます。例えば、ある会社では耐震改修が強みなので「耐震」、ペンキ屋さんだったら「塗料」をと言う形で、その方々たちの得意分野を集めてセミナーをやっていこうとということで進めています。そうすると決してお客さんの上に立ってものを教えるというセミナーではなくて、先ほど体験型をよくやっていると説明していましたように、できるだけお客様との情報がキャッチできるような形となります。講師になられた会員は「今日講師をやらせてもらってとてもよかった」、やってないが参加した会員は「次からうちも○○でならできるよ!」と言って下さる。こういう活動をすることで、自分たちも少しは信頼を得ることができるのかなと。また、自分に誇りを持てることもできます。お客様から得た情報も喜んでいます。
 
もう一つは、住宅業界・戸建住宅の業界というのは日本の木を使うことが多いんですね。工務店だから、建築士だからといって木のことを全部知ってらっしゃる方はそう多くはないということを、この活動をやり始めて知ることができました。だから一軒の家は、ネットワークによってできてるんだよと言うことを、消費者の方にお伝えできればと思います。
 
猪股:先ほど少しお話しましたが、不動産は地域性があります。もっといえば不動産業に携わるものとして、やはり地域の中にいて、一緒に地域を作っていかなあかんのだろうという感覚を持っております。
 
鈴森さん(住宅長期保証支援センターさん)のところとは住宅履歴がしっかりしたものを一緒に携えながら、安心して私どもが消費者にご紹介することで、質の高いストックが流通していくことが本来の姿だろうと私は思っています。
 
高齢者の住まい方という面からであれば、私どもはその箱(建物)を売ったり、斡旋はしてますが、本来はソフト面も含めて高齢者の住宅とはどういうものかを不動産の取引にかかわるものとして探っていきたいと考えています。専門家団体、センター、大阪市などが連携して、新しい高齢者居住の提案といった新しい地域に根ざした不動産のあり方を模索したいと思っていります。
 
今後やりたいということは、約30名ほどのインストラクターの認定が終わりまして、そういう方の出前講座への派遣、インストラクターとNPOの連携などを通じ、業界としての信用回復と言うとまた怒られるけど、私どもは怖くないんですよ、まじめなんですよ、ということを知っていただきたいです(笑)。
 
さらにいま、重要事項の説明の問題、紛争の問題にはこんなものがあるよ!、その解決方法は、というものをまとめています。また「レインズ」という不動産業界の情報網を使って、不動産の動向をまとめつつあります。そういう情報が皆さんの手元に届いていないと言うことも非常に反省を持っています。こういうことも含めて地域密着型の本来あるべき不動産業にしていきたいなというのが、今の想いです。
 
弘本:ありがとうございました。本当にパネリストのみなさんがおっしゃっていたように、住まいをめぐる課題は、高齢者の問題にしても、環境の問題にしても、不動産の問題にしても、地域の問題にしても、非常に複雑で幅広くなってきている中で、住まいにかかわる多様な専門家の方々たちが、情報を共有しあったり、学びあったりと言う場にも、このセミナーやイベントになっていってるわけですね。
だからそこに市民の方もどんどん参加していただくことで、相互に情報や経験を共有しながら、次のまちづくりの資源にしていく、価値にしていく、そのための場なんだということを今日お話を聞いて感じることができました。そして、これからの出前講座の中でも連携していけると大変すばらしい取り組みに発展していくのではないかなと思っています。