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大阪市立住まい情報センター 平成25年度シンポジウム報告 第1部基調講演

投稿日 2014年2月27日(木)
更新日 2021年9月17日(金)

  大阪市立住まい情報センター 平成25年度シンポジウム
「リノベーション住宅って?シェア住宅って?
自分らしい、おしゃれな暮らし、はじまっています」

 


既存の住空間を改修し、用途や機能を変更することで、性能を上げたり新しい価値を見い出したりする「リノベーション」、複数の人々と住宅を共用する「シェア」が、新しい住まい方、快適な暮らし方として注目されています。昨年11月2日、大阪市立住まい情報センターで実施されたシンポジウム「自分らしい、おしゃれな暮らし、はじまっています」でも、参加者のリノベーション住宅やシェア住宅に対する関心の高さがうかがえました。

 

 

馬場 正尊氏 

ばば まさたか

建築家、Open A ltd . 代表取締役、東京R不動産ディレクター、東北芸術大学准教授。94年早稲田大学大学院建築学科修了後、博報堂入社。早稲田大学大学院博士課程、雑誌「A」編集長を経て、03年建築設計事務所Open A ltd.を設立。建築設計、都市計画など幅広く手がけ、中古物件仲介サイト「東京R不動産」を共同運営。著書に「『新しい郊外』の家」「都市をリノベーション」など多数。

 

第1部
基調講演
住まいの新しい潮流 自分の家を自分で編集する時代

 

少しの工夫が空間を変える

Open A td.という建築設計事務所を運営し、特にこの10年は、古い建物にアイデアを加え、新しく生まれ変わらせる「リノベーション」に力を入れてきました。同時に、「東京R不動産」というサイトをつくり、不動産仲介も始めました。最近は、団地や公共空間、公園など、パブリックなスペースを新しく変えることを考えて仕事をしています。

 10年前、アメリカへ取材旅行しました。シカゴでは、港湾近くの倉庫・オフィスを住宅に改造した例を見ました。スケルトンで売っており、天井が高く、がらんとした空間にキッチン、トイレ、浴室など配置し、自由に住みなさいという。こんなざっくりした空間を住み手に提供していいのか、この潮流は日本にも早晩やってくるだろうと思ったものです。

ロサンゼルスでは、ビール工場をオフィス兼住宅に改造した例を見ました。働いている人と住んでいる人が混在し、真ん中にカフェがあって、打ち合わせをしていたり、お茶を飲んでいたり。そんなコミュニケーションの中心があることに感心し、これからの世の中はゆっくりこんな方向へ流れるのではないかと思いました。空間はちょっとしたことで変わるし、必ずしも新しいことがいいわけではない。もっと合理的で違った価値観を持った人々が生まれてくるのではないかと思った旅でした。

 

東京R不動産で中古物件の仲介

帰国してからすぐ、東京・神田の裏路地に元倉庫だった古い物件を見つけ、まずは白いペンキを塗りました。白いペンキは、魔法のように空間を変えてくれます。少し手を入れるだけで、空間はがらりと変わります。

この時に「東京R不動産」を着想しました。街の不動産屋さんに行って、「改造してもいい物件はあるか」と聞いても、ほとんどは門前払い。日本の賃貸借では原状回復の義務があり、勝手な改造は難しいからです。時々、改造してもいい古い物件を紹介してくれるのですが、アメリカで見たような“かっこいいボロ”ではない。街の不動産屋さんと僕の間には、埋めようもない感性のギャップがありましたが、空き家物件を見つけてはこれおもしろい、とブログで書き続けたことが「東京R不動産」のサイトの立ち上げにつながります。

一般的な住宅・不動産のサイトでは、「駅から何分」「3LDK」「浴室の追い焚き可」など立地や住宅性能が示されますが、東京R不動産では、「レトロな味わい」「改装OK」「お得なワケあり」など、数字にならない価値を掲げ、感性情報で物件を選べるようにしました。それから10年、今では月間350万ビューのサイトに成長。東京だけでなく、全国9エリアで“R不動産”サイトを展開し、昨年からは団地も取り上げています。

「不動産と建築」「デザイン」「メディア」の3つの領域を横断し、視点を融合することによって、中古物件や古い物件の見方が変わってくるのです。

 

さまざまなリノベーションを実践

本当にいろいろな住空間をいろいろな方法で再生してきました。例えば、築70年の古ぼけたオフィスにはフローリング材を貼って、家具を置き、ユニットバスを冷蔵庫のようにごろりと設置しました。部屋数の多い◯LDKスタイルではなく、大きい空間を家具で仕切り、家族の生活に対応させていくのが実はリッチではないかと提案しています。

5年間、借り手が付かなかった築40年の廃墟のようなオフィスビルは、古い良さを感じるタイル部分を残してリノベーションしました。最上階の住戸は、水回りを清潔に変えましたが天井は古いままでむき出し。廃材のガラスに滑車をつけてテーブルにしました。きれいな部分と古い味のある部分のコントラストがおもしろく、近隣の賃貸住戸より家賃を高く設定できました。

なかなか借り手が付かない平凡な一戸建ては、白いペンキで内外を塗り替え、構造補強をしながら、たくさんの小さな部屋をぶち抜いて一部屋に。天井も低かったので、構造躯体をむき出して解放的な空間に変えました。広い空間にどう暮らすか、住み手に委ねます。

80年代につくられた独身寮は、食堂を共同リビング・サロンに、厨房はビリヤード室に、機械室はジムにして、一人ひとりの住戸は6畳のワンルームに変えました。シェアハウスの原型ですね。最寄り駅から22分の立地がネックだったのに、若い人に人気の物件になりました。

 

住人が自分の住空間にコミットする

  一昨年から古い団地のリノベーションに取り組んでいます。団地は敷地に余裕があり、緑地も豊富。エアコンのない時代に企画された住戸は、南北両面に開口部があって風通しが良く、実はエコな間取りになっています。襖を開け閉めすることで間取りの大きさを変えるのは昔からの日本の住宅の良さ。これを今風にアレンジしてみました。

 URの観月橋団地(京都)では、若い人たちが住み替えてきて、多世代が混在できるようにと、いろいろプランを考えました。その一つが「土間プラン」。玄関を入ったら土間があり、住み手が自由に空間の使い方を考えます。あえてレトロな電灯を使うと、若い人たちには新鮮に映るようです。「団地R不動産」のサイトを立ち上げ、魅力的な団地を図鑑のように紹介しているうちに、うちの会社のスタッフにも団地に住む人が出てきました。

 自分で住空間をカスタマイズできる賃貸住戸の潮流は、2013年が元年のような気がします。東京・初台にあるマンションは、改造OKにしたことで大きく変わりました。単に住む人だけでなく、ここでカメラスタジオや雑貨ショップを運営し、働きながら住む人が生まれました。人気を呼んで借り手が増え、改装費用は入居者負担でどんどんきれいになっていきます。

「ツールボックス」という住宅建材のセレクトショップのようなサイトも立ち上げました。フローリング材やドアノブ、長さを注文できるタオルハンガー、レトロな電球笠などいろいろな住宅建材を扱っていて、空間づくりをサポートしています。

 

住み手が住空間を自ら編集できるように  

 大阪市住まい公社と組んで賃貸住宅をリノベーションしたり、URDIYの講座を実施したり、無印良品や蔦屋書店と住空間の編集についてコラボレーションしたり、さまざまな取り組みが増えてきました。

住空間のリノベーションに際して、どんなデザインやどんな暮らしの可能性があるか、どう工夫すれば素敵な住空間になるのかを考えます。住み手が住まいを編集しながら暮らすのが、新しいライフスタイルのスタンダードになりつつあります。与えられた空間に自分が合わせて暮らすのでなく、自分の空間をカスタマイズする、演出する、考えながら住む時代が到来しています。また、核家族が崩壊してくると、誰かと住む、何かを共有するライフスタイルが生まれてきます。それは実は、節約であり防衛であり、豊かなコミュニケーションにつながる装置ともなります。 

  

住まい情報センター4階住情報プラザでは、公的賃貸住宅のリノベーション事例のパネル展が同時開催され、熱心に見入っている人が目立ちました。
 

続きはこちら≫https://www.sumai-machi-net.com/symposium/archives/2995