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大阪市立住まい情報センター 平成25年度シンポジウム報告 第2部パネルディスカッション

投稿日 2014年2月27日(木)
更新日 2014年2月27日(木)

第2部
パネルディスカッション
「もう一つの豊かな暮らし つくる住まい つながる住まい」

パネリスト: 川幡 祐子氏、永瀬 泰子氏、久米 真理氏 コーディネーター: 馬場 正尊氏

 

公的な団体がリノベーションに挑戦

 

川端 祐子氏

かわばた ゆうこ

大阪市住宅供給公社企画事業課。民間の都市計画系コンサルタントで、住宅政策分野の調査や計画策定に従事。06年から大阪市立住まい情報センターで、専門家団体、NPO等との協働によって住まいまちづくりに関する普及啓発活動を実践。現在、公的賃貸住宅でのリノベーション、シェアハウス、団地再生事業に従事。

 
 川幡 大阪市住宅供給公社(以下、住まい公社)は、市内にある約6000戸の賃貸住宅を運営・管理しています。全国の空家率は14%ですが、大阪は17%とやや多く、リノベーションには空き家対策としての一面があります。住まい公社の名前を知らない人が4割ほどいますので、知名度を上げるリブランディング対策としても位置づけています。
 馬場さんと組んで、空室の多い団地の一つ「コーシャハイツ港」(港区)をリノベーションしました。95年管理開始、大阪港駅から徒歩2分、82戸の団地です。上層部の住戸からは、港大橋や海に沈む夕日の景色が美しいのですが、眺望が生かされた間取りではありませんでした。部屋が小さく仕切られ、住戸の面積が60㎡もあるのに広く見えない。そこで間仕切りを取り去って1LDKにして、家具のようなL字壁をつくって住みやすく変えました。
 居住者が色を塗ってもいいし棚を付けてもいい“カスタマイズできる壁”を設置、壁のクロスを取りのぞいてコンクリートをむき出しにし、床には無垢の板を貼りました。こんな住まいづくりは初めてで、ドキドキしながら9戸をリノベーションしたところ、半年で入居者が決まり、今年は2週間で埋まるほどです。
 内覧者に聞くと、「景色がいい」60.5%、「カスタマイズできる壁がいい」34.9%、「広さ」32.6%、「無垢の床」32.6%と、概ねこちらが意図したことを評価していただきました。ほかにも、北欧風のデザインにした「アクセントウォールプラン」、住戸の真ん中にロの字のスペースがある「フリーボックスプラン」などがあります。最初は、この空間をうまく住みこなす人がいるだろうかと思ったのに、蓋を開けてみたらとても人気です。
 今年度からは企画事業課の建築スタッフで、「アールのある壁プラン」「ブックシェルフのあるプラン」を企画しました。住宅の内部だけでなく、住む地域の良さもアピールしていこうと、大阪港の赤レンガ倉庫や近代建築、渡し船を紹介したり、自転車ツアー、トークショー、DIYのレクチャーなどを実施して、多角的に発信を続けています。

 

暮らしと価値観をシェアする

 

永瀬 泰子氏

ながせ やすこ 

有限会社Come on UP代表。06年2月、同社を設立し、シェアハウスの運営を開始。会社のポリシーは「シェアから広げる、わ」。事業内容はシェアハウス運営・管理、ハウスシェアのサポートや新規事業立ち上げ支援、東京と関西を中心に29軒のシェアハウスを展開し、全国にシェアカルチャーを広めようとしている。

 
永瀬 共同生活を通してお互いに影響し合い成長する住形態を、私たちはシェアハウスのコンセプトとしています。私は7年半前からシェアハウスの運営を始めました。1軒あたり5LDKから9LDKの戸建てを想定し、ひとり1室のプライベートスペースと、広いリビングルームやウッドデッキなど一人暮らしではなかなか手に入らない共用スペースを共有します。
 これまで29軒のシェアハウスを手がけ、主に20代、30代の社会人が住んでいます。教師やキャビンアテンダント、エンジニア、漫画家…など職種はいろいろ。私自身もシェアハウスに住んでいます。住人同士の交流があり、住環境もよく、ここで暮らしていると生きる活力が湧き、お互いが影響しあいながら成長することができると実感します。
 シェアと切り売りとは違います。シェアには、人と人とのつながりやコミュニケーションがあり、生活をシェアしていると互いに共通認識があります。
 東京のシェアハウスに住んでいた建築家の学生が起業をして、別のシェアハウスをつくったこともあります。エコの視点でリノベーションし、古い窓ガラスをテーブルの天板にしたり、不要な柱をテーブルの足にしたりして活用しました。こんな家にはエコマインドな住人が集まってきて、暮らし方はさらに見直されました。
 東日本大地震の際にはお隣のお年寄り宅に安否確認に行って喜ばれ、交流が生まれてきました。
 あるシェアハウスでは、大家さんのおじいさんが庭の手入れをされているのですが、彼の95歳の誕生日に住民たちがパーティを企画しました。単に大家と店子の関係でなく、大家さんと対話が生まれている事例です。
 関西で最初に開いた緑橋(東成区)のシェアハウスは、老朽化した長屋を12年4月に7LDKに改装しました。つくる過程も地域にシェアしたことで、いろいろな輪が広がっていきました。町家再生のワークショップを開いたり、地域の文化祭に参加させてもらったりしながら、暮らしを通してシェアハウスを広げる活動を自然体で行っています。

 

DIYでつくる喜びと家族の絆づくり

 

 

久米 真理氏

くめ まり

専業主婦。結婚を機に入居した築46年の賃貸住宅でDIYに目覚める。2010年雑誌「私のカントリー」で心豊かな暮らし大賞“DIY賞”を受賞。自宅のDIYをブログで紹介すると、共感するファンが急増。URの賃貸住宅のモデルルームのDIYをプロデュース。安くて早くてずっと楽しめる家づくりをめざし、子育てをしながらDIYを奮闘中。


久米 結婚を機に住み替えた賃貸住宅は築45年。古ぼけていて、ちっともワクワクしませんでした。自分に与えられた今の状況を何とか楽しめないだろうかと、見よう見まねでDIYを始めました。床にクッションフロアを敷いたり、キッチンカウンターをつくったり、玄関扉を開けてすぐの和室にドアを付けたり、3年半かけて今の家になりました。その間、失敗の連続でしたが、失敗する以上につくり出す喜びが勝っていました。
 賃貸住宅は退去する時に原状回復をする義務があり、できることには限界があります。77万戸の賃貸住宅を抱える日本最大の家主、URさんが原状回復を免除しリノベーションを認めたのはまさに革命。私はモデルルームのプロデュースを担当させていただきました。従来ならばできないのですが、和室の押入れの中板を外し、ペンキを塗ったり板を貼ったりしてアトリエ空間をつくり、家族のマルチスペースを提案しました。
 キッチン横のスペースにブリックタイルを貼ってカフェのような空間にしたり、キッチンの天板にタイルを貼って明るくしたり、北側の暗い和室の窓に温かい印象の窓枠を付けたり、玄関の三和土にレンガを敷いて外国の路地風にしたり。大工仕事というより手軽にできる工作仕事という感じで進めました。
 このURのモデルルームは、手軽に買える材料を使って18日間で完成しました。ネットで購入すると重いものを玄関まで運んでもらえますし、ホームセンターで建材などを買えば欲しいサイズに切って売ってくれます。女性にとってもDIYがしやすい時代です。
 古い家をリノベーションして新たな表情につくり替えるのはステキです。料理をつくったり服を着替えたりするように、壁の色を気分で変えるのもいい。DIYは安価なので家計にも響きません。多少曲がっていても、それはわが家の味。手づくりの良さ、温かさがDIYの魅力で、家の変化を家族みんなで喜んでいるうちに、家族との絆を強めてくれるようにも思います。

 

住み手の意思が良質なコミュニティに

川幡 緑橋のシェアハウスのオープニングで、永瀬さんが一生懸命料理をつくり、これから入居する人とお話されている光景が印象的でした。ハウス内のコミュニティづくり、どう工夫されていますか。

永瀬 きちんとビジネス提案をしなくても、普段の暮らしの中から意思の疎通ができているので、自然に輪ができて影響し合っていけますね。

馬場 シェアハウスでの喧嘩やルールづくりについては?

永瀬 喧嘩もしますが、喧嘩を悪いことと思っていません。いろいろな人がいることで、いろいろな価値観に気づき、他人との距離もわかるようになり、それが一人ひとりの成長につながればいい。29軒あるシェアハウスでは、住民同士がゴミ出しや掃除当番などもそれぞれ話し合って決めています。

 

失敗を恐れずにチャレンジ

馬場 久米さんがDIYをする時のスタイルは?

久米 汚れてもいいように「つなぎ」を着ています。のこぎりがあれば何でもできますし、道具は100円均一店で調達してもいい。ホームセンターの工作室を使えば木の粉やペンキで家が汚れることもないし、道具も貸してもらえます。DIYの80%が失敗経験なのですが、それもおもしろいと思います。壁紙だって、剥がせる糊があるのでどんどんトライできます。

川幡 住まい公社が実施しているDIY教室では、簡単に始められる情報を提供しているのですが、久米さんのように「失敗を恐れない」若い人なんてそんなにいないですよ。最近では、ネットでもDIY商品が探しやすいし、久米さんのようにDIYの成果をブログで報告している例も参考にできますね。一方、馬場さんのリノベーションを見るたびに、素敵でため息がでるんです。どこからインスピレーションが湧くのですか。

馬場 まず、現地に行くのが楽しい。スケルトンになった風景を想像し、建材を剥がしながら、地肌の意外な表情を発見したり、古い建物と対話したり。同時にたくさんのことについて、パズルのように考えていきます。問題を楽しみ、パズルが解けるとうれしい。

永瀬 磨けば光る物件か、ダメな物件か、どこで見極めるのですか。

馬場 まず建築基準法に合致しなければ。設備の刷新や構造補強にお金がかかりすぎる場合は、新築の方がいいということに。少しのアイデアを生かすと、大化けするような物件をポテンシャル物件と言っていますが、それ自体を探すことが重要な仕事だと思っています。

 

さまざまな制約と新しい価値の創造

久米 賃貸住宅では、原状回復を前提にDIYをしているので限界があります。建築士ではないので大掛かりなことはできません。最大限どこまで変えられるかいつも試行錯誤です。

永瀬 シェアハウスは、大家さんとの契約が1軒1軒特殊で、リノベーションプランを出して交渉します。初めての大家さんはとても不安がられます。完成したら一度見に来てください、だめだったら原状に戻しますと交渉。これは自信があるから言えることですけど。

川幡 カスタマイズできる壁のプラン、木造の壁の部分のみ手を入れていいと制限しました。例えば特殊な壁紙にしていて次の借り手がつかないかもしれないと逡巡したからです。公的な団体が賃貸のリノベーションにトライアルしたことには意義があると思っています。

馬場 永瀬さんの話からは、シェアという概念がこれから家の中から地域へ展開されていくと印象を受けました。久米さんのDIYも今は家の中だけど、団地の足下、パブリック空間に広がっていくかもしれないですね。今、街のパブリック空間にコミットすることはなかなかできません。私たちもあらかじめ諦めてしまいがち。住まいの先に、公共空間へ、街へと、新しい価値が広がっていくといいですね。

 

第1部≫https://www.sumai-machi-net.com/symposium/archives/2982