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大阪市 住まいのガイドブック あんじゅ

《特集》バイローカルムーブメント—よき商いを守り育てる365日の住民運動

半径2km、自転車で15分くらいの範囲

 阪堺電車・東天下茶屋駅は天王寺駅前駅からわずか3駅、自転車では10分ほどの距離にある。バイローカルの活動エリアは阿倍野区を中心に住吉区、東住吉区にまたがる。東天下茶屋駅のある阪堺電車上町線から、東はJR阪和線南田辺駅周辺の半径2kmほどの範囲だ。

 

阪堺電車上町線東天下茶屋駅前の様子

 

 「ビーローカルパートナーズ」*1(以下、ビーローカル)の代表・土居直人さんは「近くに便利な商業施設もありますが、あくまでも住民の立場で、自分たちの暮らしとまちを豊かにしていきたい。そのためにも地域でよき商いを続けるお店を知ってもらい、みんなで守り育てていくことが必要だという思いからビーローカルの活動が始まりました」と語る。企業で建築士として働いている土居さんは阿倍野区出身で、一度は離れた地元に戻ってきたのが、ビーローカルが始動する前の年だった。

 

*1:[ビーローカルパートナーズ]バイローカルを運営しているチーム

 

ビーローカルの代表・土居直人さん

 

 ビーローカルの活動は一人の住民が地域で繋がりのある都市計画家や建築家にイベントの開催を相談したのがきっかけだった。当時、相談を受けた建築家の伴現太さんは、「声をかけられたのが、普段からまちづくりについて考えているメンバーだったこともあり、一過性のイベントはやりたくないと意見が一致して、地域に住む人に向けた何かをやりたいという話になった」と振り返る。

 

ビーローカルのメンバー・伴現太さん

 

地元の人が地元の店を知るきっかけづくり

 地元を愛して止まない地域住民6人でビーローカルを立ち上げ、活動を開始。2013年に桃ヶ池公園で初めて開催された青空市「バイローカルの日」には、地域にある30ほどの店舗が参加した。以後、毎年1回開催し、現在は長池公園に場所を替え毎回50店舗ほどが参加する。一度参加した店舗はすべてオリジナルのマップで紹介しており、今ではおよそ140店舗が掲載されている。

 

2025年の「バイローカルの日」。
地域の店と地域に住まう人が出会うためのマーケット(青空市)
2023年に初めて開催した「ナイトバイローカル」の様子

「バイローカルの日」に参加した店舗が掲載されたMAP(左)。
コロナ禍の2020年に作成された『昭和な町の未来地図』(右)には未来に出会いたい景色が描かれている

 

 

 店舗選びの基準を聞くと、「統一された基準はないが、おすすめしたい店で、その理由を自分で語れること。あくまでも住民目線を忘れないように心がけています」と土居さん。年々認知度が高まり、来場者が増えて商品を買う行列ができるほど賑わうこともある。建築家の桂幸一郎さんは「混雑しすぎるとバイローカルとしては失敗です。店と住人、店同士が交流して顔の見える関係になってもらうための場だから、話をする余裕もない状況ではだめなんです」と語った。また、飯野大輝さんは「知っていたけど入りづらかった近所の店や、新たに知った店に行きやすくなるような場にしたい」と話す。

 

ビーローカルのメンバー・桂幸一郎さん
ビーローカルのメンバー・飯野大輝さん

 

「日々の生活が豊かになる」がキーワード

 バイローカルの日を開催する目的は、身近にある「よき商い」と出会い1年365日を通して日常的に利用するようになってもらうこと。「まちが元気になってほしいと思ってやっている。地域内で経済が循環するようになり、店が元気になるとまちが元気になったという実感を得やすい」と桂さん。その日限りではなく「日々の生活が豊かになる」ことを目指している。

 

 「新しい店を出すなら、まち全体に活気がある場所を選びたかった」と話すのは東天下茶屋駅前のTHE MARKET内でBBQ料理店を営む新城司さん。以前は池田市で店を開いていた新城さんが、新店舗を出すにあたり相談したビーローカルのメンバーで都市計画家の加藤寛之さんに「ここで一緒にやろう」と誘われた。「ここに来た2018年頃はシャッターが目立つ商店街で少し寂しい駅前だったけど、これから盛り上がっていきそうな兆しが見え始めていた。今年から運営にも携わっている」と語った。

 

ビーローカルのメンバー・新城司さん
ビーローカルのメンバー・藤野直人さん

 

 同じく、このエリアで園芸店とハンバーガーショップを営むのが庭師の藤野直人さん。阿倍野区で生まれ育ち、広島で造園の修行をした後に地元に帰ってきた。戻ってすぐは仕事がなかったが、地元の人たちが庭の剪定を頼んでくれたり、店舗の庭づくりを引き受ける機会が増え長池町に店舗を構えることができたという。

 一方、ハンバーガーショップではバイローカルにも参加する3軒のパン屋からバンズを仕入れており、「バンズが美味しいと言われたらパン屋さんを紹介して、パン屋さんはハンバーガーの紹介をしてくれる。同じ地域の店同士がつながってお互いに応援し合えるのがとてもいい」と藤野さんは話す。

 

新城さんのBBQ料理店のほかベーカリーカフェが入るTHE MARKET

 

職住近接・職住一体の暮らしがある

 ビーローカルのメンバーのほとんどが阿倍野区に住み、同じエリアで商いをしている。バイローカルに参加する大半が飲食店だが、ライバルではなく応援し合える関係をつくってきた。メンバーが店舗に参加をお願いする時には、必ず他の店のことを応援してくださいと伝えている。「お客さんを奪い合うのではなく、お互いのお店の良いところを紹介し合うことで、住民の期待値が高まり、まちに元気が出てくる状況をつくりたい」と土居さん。家族が地域で惣菜店を営んでいる伴さんは「住みながら商売をしているから、生活者でもある。遠くから通ってきて働くのとは違う地元に対しての思いがある」と話す。

 

浪花餅の向かい側にあるのがシェアスペースBLENDSとケーキ店の入る元歯科医院(手前)、その隣にグロッサリー店がある

 

 コロナ禍も店同士の情報交換があったといい、「繁華街へは行かず、地元のお店を探す人が増えた影響で、エリア全体が自然とバイローカルの状況になった」と新城さんは振り返る。夜の飲食店利用は減ったものの、テイクアウトや配達などで、日常品の需要は上がり、改めてローカルの繋がりの大切さを感じたという。

 

ささやかな出来事に日常の豊かさを感じる

 「昔はここの商店街も店で埋まっていて賑やかだった」と教えてくれたのは、明治創業の老舗和菓子店・浪花餅の女将・山村美智子さんと夫の康幸さん。康幸さんは3代目で、現在は息子の和幸さんが4代目店主を務める。出張販売はしてこなかったが、バイローカルの日への参加がきっかけで、今では地域の夏祭りにも出店している。

 

浪花餅の山村美智子さん(左)は毎日店頭に立つ。
先代の康幸さん(右)も店を守っている
2025年5月のバイローカルの日より。
4代目店主山村和幸さん(左)、美嘉さん(中央)、美智子さん(右)

 

 長年地域に根付いた商いを続ける浪花餅には、取材時も次々と客が訪れ季節の和菓子などを買い求めていた。その中に小学生くらいの子どもが一人でおつかいに来る姿があった。自身も子育て中の土居さんは「まちを歩くと挨拶を交わす機会が増えた。子どもがお店に行って店主と話をするという、何気ない出来事に日常の豊かさを感じる」と話す。設計事務所を営むかたわら子どもにサッカーを教える桂さんは、通りを歩く子どもたちに次々と声をかけていた。「子どもたちからはサッカーの仕事をしていると思われている」と笑う。

 飯野さんは4年前からビーローカルに加わり、勤務先でも鉄道会社と共同でバイローカルを展開する事業に携わっている。大学生の時に、生業もバイローカルも楽しみながら取り組む大人たちの姿を見て、自分も関わりたいと引っ越してきた。「昭和の人情味というか、店の人と会話をしたり、まちのことに関わることの楽しさを20代の僕らは知らない。それを面白いと教えてくれたのがメンバーのみなさんやこのまちだった」と語った。

 

顔見知りが増える幸せと安心感

 8年前に阿倍野区へ転居してきた山下靖子さんは、「引っ越す前に参加したビーローカルのメンバーで不動産業を営む小山隆輝さん主催のまち歩きで、直接お店を紹介してもらったのがとても楽しかった。まちの人にまちのことを教えてもらえる、顔見知りが増える幸せはお金で買えないし、暮らしの安心感につながっている」と話す。一方、阿倍野区出身の林田充功さんは、バイローカルの日が始まった時期から地元を離れていたこともあり、取り組みを知らなかったという。「東天下茶屋駅のすぐそばに店ができて、控えめな雰囲気だったこの場所にと驚いた。なんとなく店が増えたり、若い人を見かける機会が増えたように感じてはいた。高齢になってきた両親が、地域の中でも楽しく暮らせたらいいなと思う」と語った。

 

山下靖子さん
林田充功さん

 

 土居さんや桂さんからは「おすすめの店があったら教えてほしい」との声が。メンバーだけでは馴染みの店を増やすにも限りがあるため、いろんな人のおすすめを知りたいそう。「一人の人間ができることには限りがあるが、地域のみんなが楽しく無理のない範囲で継続することが大切」と土居さん。熱心だけど、無理をせず、生活の一部として楽しみながらバイローカルを続けているという。

 

バイだけじゃない、これからの「○○ローカル」

 10年以上取り組みを続けてきた中で、地域住民が地域のお店を利用することや、お店同士がお互いに応援し合うことが定着してきた。ビーローカルのみなさんは、今は自分たちが動かなくてもバイローカルは成り立つと感じている。バイローカルの日は1年に1度の楽しみでもあり、出会いの場として継続するつもりだが、今後は「バイ」以外の「ローカル」に取り組みたいという。

 すでに始まっているのが、「TALK LOCAL」。加藤さんを中心に、地域の店のこだわりや、まちのことを聞くトーク番組の動画を配信している。土居さんがやってみたいのは「クリエイトローカル」だ。飲食店は増えてきたが、ものづくりやアトリエなどは少なく、ものづくりが好きな人たちが集える場づくりをしたいと考えている。また、子育て世帯や高齢者が過ごしやすいまちにするための「ローカル」にも取り組みたいという。伴さんは自身の事務所があるエリアで、小さなマーケットを開催している。「バイ」以外のローカルを一人一人が小さくやっていく機会も増えていきそうだ。

 

 「バイローカルは、日常を豊かにしてくれるまちを自分たちでつくる取り組みだから、どの地域でもできるし、僕たちにもまだまだできることはたくさんあるはず。これからも地域の人たちを巻き込みながら、豊かなローカルをつくる活動を続けていきたい」と土居さんは語った。

 

土居さんが運営するシェアスペースBLENDSにて