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大阪市 住まいのガイドブック あんじゅ

天井改修工事の記録

 令和3年9月18日から閉鎖していた9階展示室・10階展望フロアが10月29日に再開します。1年を超える閉鎖は展示室天井の改修工事が目的でした。

 

養生した町並みとその上空にある吊り足場
工事の目的

 9階展示室は東西36m南北33m、およそ千二百㎡あり、近世大坂の町並みが実物大模型で展示されています。その町並みを覆うのが筒型天井(「ヴォールト天井」と言います)です。いちばん高いところで14.5mあり、高さ12.3mの火の見櫓を覆うように架かっていて、筒型の形が町並みにリアリティをもたせています。また筒型天井の中央部分は採光のために光を透過する膜天井として、ワイヤーで遮光幕を開閉することで光の量を調整できるようになっています。

 

 工事前の天井は建物を支える構造部から吊り材で石膏ボードを吊り下げる構造の天井(「吊り天井」と呼びます)でした。この構造は従来の基準には適合していましたが、東北など各地の地震の経験から、震動や衝撃を受けた際に脱落する恐れがあることが分かり、平成25年の建築基準法施行令の改正で、面積や高さが一定基準を超える吊り天井の改修が必要になりました。9階展示室の天井も耐震性を備えた安全な構造の天井に変える必要ができたのです。

 

 今回の工事は、「吊り天井」から、構造部材に直接天井面構成部材を取り付ける「直天井」に構造を変更することで安全性を高めることが目的でした。

 

(左)膜天井骨組、吊り足場 (中)キャットウォークの設備養生 (右)膜天井骨組 

 
 

工事の課題

  工事にあたって難しい点がいくつかありました。まず問題となったのは、作業用の仮設足場をどのように組むかです。通常は、床面から天井面まで足場を組み上げて作業するのですが、9階には町並みがあって不可能です。一般的な展示施設ですと、展示設備をいったん撤去し、改修後に復旧する方法も考えられますが、9階展示室ではもちろん採用できません。そこで採用されたのは、吊り足場を用いる方法です。

 

 吊り足場工法は、建物の構造部材(天井の梁)からチェーンなどを用いて足場を吊ることによって作業空間を確保する工法のため、町並みを解体・移動をする必要がありません。また、直接床面にかかる荷重を軽減することもできました(注1)。町家の屋根(とくに瓦)の保護の観点からは、吊り足場自体が天井改修工事を行う空間と、町並みを隔てる役割を果たすため、落下物を防ぐ効果も期待できました。今回は筒型天井が立ち上がる高さ約9.6mのところに主たる仮設吊り足場を設けました。また足場自体も、軽量で簡単に組立・解体ができるものを使いました(注2)。

 

注1)近世大坂の町並みは免震床上に作られています。免震床の作動に影響がない工法をとるなかで、足場全体の荷重が問題になりました。また今回使った足場は軽量である分、耐荷重に制限があり、吊り足場の上に設ける作業用足場の荷重軽減に工夫が必要でした。

注2)吊り足場への昇降や点検のための足場は、十分な養生のうえ、町通り・裏長屋の路地に設けました。

 

吊り足場からみる町並みと展望フロア
町並みの保護

  粉塵対策も大きな課題でした。従来の天井を撤去する際には、どうしても粉塵が発生します。また天井の素材は石膏で、解体工事による粉塵が町家の屋根や壁面・建具に付着するとその除去がたいへんむずかしく、町家の内部や展示物にも影響が出てきます。

天ちゃん六ちゃんの養生  

 

 その対策を検討した結果、町並み全体を養生シートで覆ってしまうことにしました。町並みのラッピングです。シートの素材や厚さの検討に加え、シート撤去時のことも考えながら継ぎ目の位置も考慮し、前栽や祠、犬の模型の「天ちゃん・六ちゃん」も覆い枠を組んでシートをかけて保護することにしました。屋根瓦を傷めないように慎重に作業を行い、12日かけて養生が完成しました。すべてシートで養生された町並みの姿はまさに異観でした。また養生がむずかしい裏長屋の物干しは慎重に取り外しました。町家のなかの展示物で運び出せるものは運び出し、家具・調度類、さらに畳は全部上げて養生をしました。こうして粉塵の対策は決まりましたが、この方法はいわば町家を密閉して粉塵から守る対策です。

 

 次に問題になったのは温湿度管理です。木造構造物である町家の維持には、常に湿気に気を配る必要があります。展示室の気温が上下することで養生の内部で結露が生じ、最悪の場合にはカビなどが生える可能性が心配されました。この工事は1年がかりで、夏・冬にそうした事態が心配されました。そのために、養生シートのなかに空調された空気を送って循環させることにしました。町並みを4つのブロック(4〜5つの町家が単位になります)に分け、それぞれを空調のパイプで繋いで空気を循環させます。そしてそれぞれのブロック内で空気が循環するように送風機を置き、7箇所で温湿度をモニターしました。

 

 また天井は、9階町並みの特徴のひとつ、24時間の移り変わりを表現する映像演出の大事な要素です。夜明けとともに鶏が鳴き、町の賑わいが聞こえ、日が暮れていきます。東側の壁には月や花火が映し出されます。筒型天井の立ち上がり部分には、キャットウォークという管理用通路があり、そこに近年設置した24個のLED投光器をはじめ、200を超えるライト、音響機器、制御機器が配置されています。また月と花火の映写装置は会所・火の見櫓に置かれています。そして、これらの照明器具・音響装置は1つのシステムで繋がり、天井の遮光幕と連動しながら24時間の演出を行っているのです。今回は、これらに粉塵対策を施し、ケーブルや一部の機器は取り外すことになりました。

 

再開に向けて

  この稿を執筆している8月末の段階で天井改修自体は完了し、町並みの養生シートも撤去されて工事自体は終結のフェーズに入りました。シート養生の結果、大量の粉塵の付着は防ぐことができました。町家内部も点検しましたが、空調管理の結果、結露も生じませんでした。

 ただその分、養生シートにはかなり粉塵が付着していたため、慎重にシート面の清掃を行ってから除去を行いました。これからの作業としては粗清掃ののち、シート養生で防ぎきれず町家の屋根・外壁、それに内部に入って付着した粉塵を取り除くことになります。粉塵は天井の素材・石膏が含まれているために水拭きすることができず、丁寧に除去していく必要があります。また、損傷していた町家の修復も行います。実際に屋根や建物・植栽などに修復が必要な箇所を確認していて、屋根職人さん・大工さん・植栽作成の専門家に修復作業をお願いする予定です。

 

 こうした作業のあとに展示復旧の作業が待っています。基本的には「元に戻す」作業ですが、音と光の環境演出の復旧は手間と時間がかかる作業です。それぞれの機器・設備の点検・作業の確認のほか、24時間演出のシステム確認が必要で、さらに今回は、映写装置の更新作業も加わります(注3)。4月と10月に行っている展示替え休館の期間ではできない畳表のはり替え作業、また、動画ソフトの更新や、二次元バーコードによる多言語対応の充実も予定しています。

 

注3)遮光幕の開閉・風呂屋シアターの上映を含めて実際にシステムを作動させて確認を行います。

 

 さて、今回の工事は、来館者に町並みを安全に見ていただくため、そしてまた大切な町並みを守るためのものでしたが、展示の裏方にあたる環境演出や空調まで関わる工事となりました。難しい課題に取り組んだ関係の皆様、そして閉鎖にご理解いただいた市民の皆様に改めて感謝いたします。

 

 ※本稿執筆にあたり㈱松陽工務店・㈱京洛サービスから情報提供をいただきました。ありがとうございました。

 

大阪くらしの今昔館館長 増井正哉