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大阪市 住まいのガイドブック あんじゅ

地震に強い家のつくり方

 ある日突然襲ってくる地震。平穏な日常生活が一変しかねない大きな災害の一つです。

 地震に負けない住まいづくりは、私達の命や暮らしを守るために欠かせないことの一つと言えます。それでは地震から私たちを守ってくれる強い住まいとは、一体どのようなものなのでしょうか?

 

一級建築士、(公社)大阪府建築士会 

山本 尚子(やまもと ひさこ)

 

⒈地震に強い家の構造は?

 

 建物の構造は、主要構造部と呼ばれる建物の骨組みを構成する材料によって分かれます。

 主要構造部に木材が使われていれば「木造」、鉄筋コンクリートであれば「鉄筋コンクリート(RC)造」鉄骨であれば「鉄骨造」です。

 それぞれ特徴があり、優れているところ、少し注意が必要なところが構造により違います。

 どの構造が地震に強いのかというと、きちんと耐震計画がなされたうえで建てられたのであれば、どの構造も地震に強いと言えます。

 それぞれの特徴を簡単にあげておきます。

 

【木造】
リフォームによって追加された耐震壁
筋交いをむき出しにして光が入る素材を貼っている。(写真提供:山本尚子)

 わが国で昔から住宅として建てられてきた一般的な工法は「木造軸組工法」で「在来工法」とも言われます。「在来工法」とは、昔からその地方で採用されてきた工法を指します。同じ木造でも「枠組壁工法」という工法は北米地方で在来工法として使われてきたもので、日本では「ツーバイフォー工法」の名称で知られています。

 

 軸組工法は柱(縦向きの材料)と梁(横向きの材料)で空間を構成するのに対し、枠組壁工法は壁で空間を囲って建物を構成しています。軸組工法では柱と柱の間に壁が無くても建物は造れますが、枠組壁工法は一定以上の壁が無いと建物は造れません。

 

 壁が多いという点で「枠組壁工法」のほうが「軸組工法」より地震に強いと思われがちですが、問題は工法ではなく「壁の量」です。「耐力壁」という壁が適切に配置されていることが地震に強い家の条件になりますので、軸組工法であっても計画的に「耐力壁」が配置されていれば、地震に強い家が造れます。

 

【鉄筋コンクリート造(RC造)】

 圧縮力には強いけれど引張力に弱いコンクリートを、引張力に強い鉄筋で補強した構造体です。とても頑丈に造ることができ、火災にも揺れにも抵抗する力を持っています。

 

 しかし、地震による建物の揺れが大きすぎて抵抗力が許容範囲を超えてしまうと、コンクリートにヒビや亀裂が入ったり、時には割れ落ちたりすることがありますが、構造計画がきちんとなされており、正しく建てられていれば中に鉄筋が入っているのでおそらく倒壊は免れると考えます。

 

【鉄骨造】

 鉄は粘りがあるので、地震の時は揺れに追随しがちです。地震の揺れに対しあまり抵抗せずに揺れに任せて一緒に揺れますが、揺れが収まれば元に戻ります。揺れたために外壁や内壁の仕上げ材にヒビや亀裂が入ってしまうこともありますが、補修で対応できるケースが多いです。

 

⒉耐震等級とは?

 家を建てる際に法律で定められた基準としては「耐震基準」があります。耐震基準とは、家が一定の強さの地震に耐えられるよう、建築基準法が定めた最低限守らなければならない基準で、全ての家は耐震基準を守って建てられているはずです。

 

 一方、地震と家の関係で近年よく耳にするのが「耐震等級」です。耐震性の指標として、現在幅広く用いられており、等級1から等級3まで3段階に分けて表されます。

 

【等級1】

 建築基準法レベルの耐震性能を満たす水準で、いわゆる最低のレベルです。数百年に一度程度の地震(震度6強から7程度)に対しても倒壊や崩壊しない・・とされていますが、これは「倒壊はしないが、一定の損傷を受けるのは免れない」という意味でもあるので安心とはいえません。

 

【等級2】

 等級1の1.25倍の強さがあると定義されています。災害時の避難所として指定される学校などの公共施設は、耐震等級2以上の強度を持つことが必須となっています。

 

【等級3】

 等級1の1.5倍の強さがあると定義されています。災害時の救護活動・災害復興の拠点となる消防署・警察署は、多くが耐震等級3で建設されています。

 

 国土交通省が定めた基準をクリアした住宅は「長期優良住宅」として、長く安心・快適に暮らせる家であると認定される制度がありますが、「長期優良住宅」の認定には耐震等級2以上であることが必要となります。

 

 等級2以上、つまり耐震性の高い家をつくるには、次のような手段があります。

  • 基礎を強くする→鉄筋コンクリート製べた基礎とする
  • 床を強くする→床に構造用合板や耐力面材を張る
  • 壁を強くする→耐力壁を多くする→筋交いを入れる、構造用合板や耐力面材を張る
  • 屋根を軽くする→軽い材料で屋根を葺く
  • 柱と梁の接合部を強くする→接合金物をバランスよく取り付ける
     

一般的に等級が上がるほど柱や梁が太くなり、壁が増えます。すると窓などの開口部が小さくなり、間取りにも影響が及び、コストも当然上がります。

 

⒊間取りを考えるときのポイントは?

 耐震性を考えると間取りにも影響が及ぶと前述しましたが、地震に強い間取りのポイントを順番に確認してみましょう。

① 階数は低いほうが有利

 建物の上部が重いと地震に対して揺れは大きくなります。よって、3階建てより2階建て、2階建てより平屋建てのほうが揺れは小さくなることから、地震には有利です(図1)。

 

② 形が正方形に近いほうが有利

 バランスの良い形が地震には有利ですので、凸凹が多いよりは四角い形が有利ですし、長辺と短辺の長さの差も少ないほうが有利です。つまり、形が正方形に近いほど有利といえます(図2)。

 

③ 大広間よりも小部屋が沢山あるほうが有利

 耐力壁は数が多いほど地震には有利ですので、広い部屋が一つの場合より小さな部屋がいくつか集まっているほうが壁の数が増えるので、地震には有利ということになります。

 

④ 大きな窓が少ないほうが有利

 大きな窓、特に南側にある大きな窓からは太陽の光が差し込んで、明るく気持ちがいいものです。ですが、窓があるということはその部分には壁が無いことになりますので、窓の大きさと耐震性は相反することになります。特に家の角が窓になっている間取りは、家の角に耐力壁が無いことになるので、地震には不利となります。

 

⑤ 直下率が高いほうが有利

 熊本地震以降、地震と直下率との関係が注目を集めるようになりました。直下率とは、木造2階建てや3階建ての家に限られますが、下階と上階で柱や壁の位置が揃う割合のことで、上下階で柱や壁が一致する割合が高いほど、耐震性に優れた地震に強い家と判断できます。ただし、現時点で直下率は法律で定められた基準ではありませんので、直下率に関係なく家は建ててもかまわないことになっています。

 

 一般的に直下率は50%以上が目安とされていますが、壁については60%以上、耐力壁については70%以上を目安としている考え方もあります。

 しかし、直下率60%を確保するのは簡単ではないとお考え下さい。理想的な住まいを考えたとき、広々としたLDKはごく一般的なものですが、1階に壁の少ない広い部屋があるだけで、直下率はグンと下がってしまいます。

 

 直下率を気にするあまり、狭くて窓の小さな暗い部屋で人生の長い時間を過ごすことになるのが、正しい選択かどうかは疑問に思うところですが、一方で、理想の間取りばかりを優先すると耐震強度が下がってしまうこともあります。家に何を求め、何を大事にし、何を優先するのかは慎重に検討したほうがいいでしょう(図3)。

 

⒋まとめ

 自分たちが暮らす家を造るときに、誰しもが思い描く理想の家があるはずです。

 ですが、理想だけを追い求めて建てた家が地震に強いとは限りません。むしろ、地震には強くないことが十分考えられます。一方、耐震性を重視した結果、思い描いた夢とは程遠い住まいに住み続けることになるのは、どこか割り切れないものが残るような気がします。

 

 理想の住まいを求めることと耐震性を求めることは、ともすれば相反することに繋がるのですが、決してどちらかを諦めてください‥ということではありません。具体的には、理想の住まいの形を創っていく過程で、構造チェックや構造計算を行いながら進めていくことが重要です。そのためには、建築士等の専門家にしっかり相談するようにしてください。