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大阪市 住まいのガイドブック あんじゅ

近代大阪の居住システムと大阪市立住まい情報センター相談事例について

【第二部】パネルディスカッション 登壇者

左から)増井正哉(大阪くらしの今昔館館長)
神前あゆみ(大阪市立住まい情報センター相談担当)
深田智恵子(大阪くらしの今昔館学芸員)
塚田孝 氏(大阪市立大学名誉教授)
江戸から明治へ

 

 大阪くらしの今昔館9階展示室には、天保年間(1830年代)の大坂の町並み「大坂町三丁目」が再現されている。学芸員の深田さんによると「町一番の大店である薬屋や、仕舞屋(しもたや)の主人は、町会所で行う寄合に参加して町の自治運営管理を担う家持で、町会所の裏にある4軒長屋は町が管理している」という設定だ。

 

大坂町三丁目 (大阪くらしの今昔館のページへ)

 塚田先生の講演では江戸時代の借屋暮らしの不安定さについて語られた。また、町という共同体が土地売買や借屋、家並に関する規則を作って、居住環境の維持につとめた。明治期に入ると、町の仕組みが解体され共同体の規則が取り払われた。

 

 明治期の賃貸借の史料を見ると、借屋の契約書には家持に有利な内容が記載されている。一方で、家賃滞納があっても即時退去を求めず、保証金で賄える範囲内で柔軟に対応した記録なども残っている。「家主の立場が強いという点では、江戸時代から続く慣習が引き継がれているのかもしれない」と深田さんは語った。

 

[家屋賃借確証(賃貸契約書)の記載項目例]

・家賃は毎月28日。一度でも滞納があれば直ちに退去。

・家主の都合で家明渡しを要請されても苦情を言わず、応じること。

・退去の際、家主・借主立会で家附物の確認を行う。不足、破損があれば 借屋人が弁償。

 

大阪くらしの今昔館9階展示室 町会所の裏にある4軒長屋

 

 

都市居住における住まいの問題

 

 住まい情報センターの相談窓口では令和4年度に約8000件の相談を受けた。特に多く寄せられるのが住み替えや賃貸借に関する相談だ。都市居住に特徴的な悩みとしては、マンションの管理運営に関することや、相隣問題における騒音が多い。珍しいところでは香害などが挙げられた。

令和4年度住まい情報センター相談内訳

 

 江戸時代には家請小屋がセーフティネットの役割を果たしていたように、現代にもさまざまな支援の仕組みがある。保証人となる人がいない場合には家賃保証会社を利用するという選択肢もある。住み替えにおいては、公営住宅のほか、高齢者や障がい者などの入居を断らない賃貸住宅の登録制度や居住支援法人(都道府県登録)による情報提供や相談などの支援がある。

 

 神前さんは「私たちは消費者側、弱い立場にある人の相談をお受けしています。法律や制度などさまざまな支援があることを、住まいの問題を抱える人に、より伝えていきたい」と語った。

 

 

大坂から大阪へ

 

 江戸時代の大坂は、多くの人が暮らし、社会的に多様で複雑な大都市だった。塚田先生は「大坂が巨大な都市へと発展する中で家請人が賃貸仲介を担う稼業として成立したり、女名前の取締などが定着してきた。大坂という都市の特質や偶然が絡み合って、慣習や仕組みが蓄積していったのだろう」と語った。

 

 増井館長は「江戸時代から変わらず大阪にはいろいろな人が住んでいる。不安定な借屋人の住まい方やセーフティネットの存在など、歴史的に繰りかえしながら現代に繋がっている。改めて、相談業務が住まいの課題に向き合う第一線にあると感じた」と締め括った。

 

第二部の様子
講演会参加者の声

 

  • 江戸時代の借家制度からそのころの人の生活がみえて興味深かった。何回か8Fの展示は見ましたが本日の深田さんの話をを聞いて内容やコンセプトがわかり興味深かった。契約書から当時を読み取るのが面白いなと思いました。続きがあれば受講したいです。日常生活において困りごとがあり、がまんしないとと思っていたが相談に乗ってもらえるとわかり一度訪問しようと思います。
     
  • 江戸時代の借家システムについて知ることができました。ありがとうございます。また明治時代についても詳しくわかりました。
     
  • 高田郁さん梶よう子さんの小説を読んでいて長屋の仕組みを知ったが時代時代で色々変化してきたんだなとより本を読むのが楽しくなりました。
     
  • 江戸時代の文書に使用借家住まいの人が良く出てくるがその実態が良く分った。家請人という商売があったことにはびっくりした。女性は大変だったんだなと改めて感じました。

 

講演会当日はたくさんの方にご参加いただきました。ありがとうございました。