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【事例紹介】 愛着の経済学 ー愛着を育む方程式ー
株式会社アートアンドクラフト/大阪R不動産 取締役
枇杷 健一(びわ けんいち)氏
1973年大阪府生まれ。神戸芸術工科大学環境デザイン学科卒業後、実家工務店で大工、建築家アトリエを経て2001年に独立。2007年からアートアンドクラフトに参画。2020年に取締役社長に就任。2023年に社長退任後は取締役に就任(現任)。2017年から近畿大学建築学部非常勤講師に就任(現任)。2016年にAPart-MENT(設計監理・現場担当)で第30回大阪市ハウジングデザイン賞特別賞受賞。2018年に新桜川ビル(企画設計監理・現場担当)で第32回大阪市ハウジングデザイン賞特別賞受賞。
オーナーの愛着「関心」×「賞賛」
新桜川ビルは、1959年に建築されました。すぐ横を通る阪神高速道路はその15年後に完成し、騒音などの影響で空室率が上がっていきました。
時代や周辺環境の変化は必ず起こります。新桜川ビルに限らず、変化に対応できず空室化が進む築古賃貸住宅は少なくありません。空室化回避のために手を打つことができず、賃料を下げるなどするうちに、オーナーの関心は薄れていき、維持管理が行き届かなくなる。負のスパイラルが起きてしまうからです。
新桜川ビルは騒音が最大のマイナス要素でしたが、逆転の発想で「音を出してもよい賃貸物件」へとリノベーションしました。ミシンを使う人、映像や音楽制作をする人、ものづくりをするなどクリエイティブ層が求める賃貸マンションになりました。完成後10年経過し、賃料は20%アップ、空室も出ていません。
第32回大阪市ハウジングデザイン賞特別賞を受賞した他、建築関連の受賞を重ねました。当初は「騒音が問題なのにさらにうるさくするのか」と疑心暗鬼だったオーナーは、自ら大阪市の「都市景観資源」に登録をするまでに。「賞賛」と「関心」がオーナーの愛着を育みました。
入居者の愛着「関与」×「伴走」
APartMENTがあるのはアーティストやクリエイターが集まる住之江区北加賀屋です。かつて鐵工所の社宅だった建物を、アーティスト8組がそれぞれ1部屋を自由につくるプロジェクトとして企画し、第30回ハウジングデザイン賞特別賞をいただきました。
アーティストが手がけた8部屋の他に、「toolbox PROJECT」として改装可能な部屋を大阪R不動産とtoolboxの共同で企画しました。toolboxは建材の販売やリノベーションなどを手がけるチームです。改装可能な賃貸住宅はオーナーにとっては不安がある一方で、入居者にとって自由すぎる条件下での改装は知識・資金・道具がないと難しいはずです。
そこで、あと少し手を加えたくなる「寸止め」の状態に整える部屋をつくりました。何かを貼りやすい壁や、板を打ちやすいパーティションがある仕様にして、オーナーが資金補助をし、我々が施工伴走をします。
入居者が適度にDIYで「関与」し、プロがそれに「伴走」してくれることで、入居者の愛着が生まれた事例です。面白いことに、7割ほどの入居者が前居住者のDIYを引き継いで暮らしています。DIYをしたら使い物にならなくなるのでは、というオーナーの心配は無事的中しませんでした。こちらも、10年間満室で、賃料も少しプラスとなっています。
「関心×賞賛」、「関与×伴走」の方程式を活用すれば愛着が設計できて、愛された建物が長く使われ、経済的にも成立するのではないでしょうか。