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大阪市 住まいのガイドブック あんじゅ

新年を祝う 菅楯彦 筆 住吉まゐり図

住吉まゐり図

  

 新年を迎え、住吉大社に参詣する江戸時代の人々の様子を扇面に描いた一幅。江戸時代後期の風俗や事物を記した『守貞謾稿(もりさだまんこう)』には「正月初卯(はつう)日 大坂にては、専ら住吉に参詣するなり」とあり、またその賑わいについて「平日も繁昌の地にして、割烹(かっぽう)店等数戸あり」と伝えています。

 

 本作では住吉大社を象徴する建築物などは描かれておらず、煙管(きせる)を手に歩く子連れの男性や、駕籠に乗る女性とその侍女といった老若男女のみが簡潔な線描と明快な色調で軽やかに表現されています。また正月の風景らしく、駕籠の屋根や人々の手には、商売繁盛の縁起物である福笹(ふくざさ)が確認できます。

  

 このように参詣者が福笹を持ち歩く様子は、江戸時代中期に活躍した月岡雪鼎(つきおかせってい)による安永元年(一七七二)の《大坂十二ヶ月風俗図屏風》(大阪歴史博物館蔵)に描かれた「今宮十日戎(とおかえびず)」の場面などにも見ることができます。

 

 一方、本作の福笹には赤・青・緑の人形(ひとがた)をつけた風流傘(ふうりゅうがさ)が吊るされており、これは住吉大社の伝統舞踊である「住吉踊」にちなんだ同名の民芸品(わら細工)を飾ったものであることが読み取れます。

 

 住吉踊は毎年六月十四日に同社で開催される「御田植神事(おたうえしんじ)」の際に奉納される舞踊で、長柄の大傘を中心に菅笠(すげがさ)をかぶった音頭取りと四人の踊り手が白の着付に黒の腰衣、茜色の前垂(まえだれ)、団扇(うちわ)などを身に着け、唄を歌いながら踊る点に特色があります。

  

外箱蓋裏墨書「浪速御民楯彦画」

作者の菅楯彦(すがたてひこ 一八七八〜一九六三)は鳥取県出身の日本画家で、自らを「浪速御民」と名乗るほどに浪速の市井風俗を愛し、それらを主題にした情趣ある作品を数多く制作したことで知られています。

 

 近代化が急速に進む時代に大阪の伝統的な文化や歴史を描き遺した楯彦は、昭和二十四年に大阪府文芸賞、同二十六年に大阪市民文化賞のほか、同三十三年には日本画家として最初の日本芸術院恩賜賞を授与されました。また同三十七年には初の大阪市名誉市民に選出されるなど、近代大阪を代表する文化人の一人として高く評価されています。

朱文方印「浪速御民」

 

上田祥悟(大阪くらしの今昔館学芸員)