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ともに育てて住み継ぐ ストック型社会の集合住宅とは
住まいも年を重ねれば設備の故障や経年変化が起こります。古くなったら建て替えるのも一つの方法ですが、長く住み継いでいくためのリノベーションや維持管理にも目を向け、今あるものを活かすことを考えてみませんか。賃貸集合住宅「LIB MARK minamihorie」はリノベーションやそのプロセスが評価され2025年に第38回大阪市ハウジングデザイン賞(※1)を受賞しました。オーナーであり管理者でもある富士建設株式会社の加納優希さん、中村有里さんにストック活用の取り組みについてお話を聞きました。
富士建設株式会社
代表取締役 加納 優希(かのう ゆき)さん
取締役 中村 有里(なかむら ゆり)さん
環境やニーズの変化との乖離が低稼働率を招いた
大阪市西区にある「LIB MARK minamihorie」は、2003年に建てられたRC造8階建の賃貸集合住宅だ。竣工時は全てが単身者用のワンルームだったが、現在は2戸をつなげて1戸にした子育て世帯向けの部屋を設けている。改修を行ったのは同じ西区に本社を構える富士建設株式会社で、居室のほか共用部も改修した。
築20年ほど経過したこの物件を同社が取得したのは2022年。「当時は稼働率が低く、家賃も下がりつつありました。計画性のないリフォームや、民泊用の仕様変更などで建物全体としてのデザインは統一感が無い状況で……」と加納さんは振り返る。建設当時に多くあった周辺の事業所や工場は減少し、代わりにカップルや子育て世帯の居住需要が増加していた。加納さんは建物の経年変化に加え、環境やニーズの変化に対応できていなかったことも稼働率や価値が低下した要因と分析する。
従来のnLDKにとらわれない間取り
「若年層、子育て世帯に適した賃貸集合住宅を探すなかで、偶然この物件に出会いました。ワンルームのみでしたが、都心部へのアクセスや生活環境の良さもあり、周辺エリアのニーズとも合致する」と考え取得に至ったと中村さんは説明する。加納さんらは以前から「大阪市子育て世帯等向け民間賃貸住宅改修促進事業(※2)」を活用した賃貸集合住宅の改修に取り組んできた。これは「子育て世帯や新婚世帯の市内居住の促進と民間賃貸住宅ストックの有効活用を図る」ための改修を行うオーナーに対して、工事費用の一部を補助するもので、「LIB MARK minamihorie」の2戸を1戸に統合(2戸1化)する改修工事においても活用した。




2戸1化のリノベーションにおいて重視したのは「従来のnLDKの枠組み」にとらわれないこと。例えば、図1の改修例のように各部屋の仕切りには可動式間仕切りを採用して行き来ができるようにし「回遊性」を持たせた。必要に応じて間仕切りを閉じたり開いたりすることで、個室にもリビングのような空間にもできる。「コロナ禍では家の中で過ごす時間が急激に増え、家族との時間も増えました。リモートワークの時間、家族と一緒に過ごす時間、なんとなく気配を感じる距離感など自由度のある設計にしました」と加納さんは語る。このようにリノベーションをした部屋は子育て世帯限定として入居者を募集し、満室の状況が続いている。
詳細な工程表と対面での説明
「LIB MARK minamihorie」では居室のほかエントランスなどの共用部も改修工事を実施した。また、2戸1化の工事に着手するためには隣接する2室が空室になる必要があった。そのため、「空室の設備を更新し、若干のグレードアップをして既存入居者にそちらへ移転」してもらうなどし、条件が整った部屋から改修を進めていった。
入居者には詳細な工程表を示し、説明は可能な限り対面で行った。特に、コンクリートなどを削るはつり工事による大きな騒音や、臭気が発生する期間については事前に明示した。それでも工事が始まれば「思っていたよりも騒音が大きい」といった状況は起こる。入居者の問い合わせには迅速に応じ、説明を重ねた。ある時、夜勤をする入居者がいると分かり、騒音が出る工事の時間帯をより詳細に伝え、防音対策の方法を変更するなどしたという。

今後はエレベーターの修繕が控えており入居者への周知はもちろんのこと、工事期間中は見守りや荷物運びの手伝いなどができるようサポートスタッフを配置する計画だ。丁寧な説明や安全への配慮を徹底し不安要素を可能な限り除いておくことが、「現場の管理担当者と入居者との良好なコミュニケーションのバックアップとなる」と考えている。
長く使い続けられるものを選ぶ
建設事業を中心に展開してきた同社が不動産事業に取り組み始めたのは20年ほど前のこと。既存の事業用建物や集合住宅を自社で保有し、維持管理、賃貸経営を行ってきた。住居用の賃貸事業においては「仲介業者さんから『これでは薦められない』と言われることもありました」と加納さん。「極端な例では設備更新で洗面台だけを交換する際に、デザインや色が全体とは合わないものを使用することもあった。使えるものは大切に使うという良い面もありながら、どちらかというとコストダウンを優先した修繕を行っていました」と振り返る。
経済的な合理性ばかりを求めるのではなく、より住まい手のことを考えた賃貸住宅の供給に取り組むなかで「今あるものを生かす」リノベーションを行うように。富士建設株式会社やgraf(大阪を拠点に活動するクリエイティブユニット)が中心となって立ち上げたのが「クルリブ」というブランドだ。その一つである「LIB MARK minamihorie」は物件取得前から設計を手掛けたgrafの担当者なども交えて改修や維持管理の方向性を議論してきたという。
表面的で無計画な修繕を繰り返すのではなく、長く住み継いでいくためのリノベーションを目指し、デザイン・施工・使用する素材にこだわる。資材価格や人件費の高騰で全てが理想通りとはいかないものの、長く使えるという視点に重点をおいている。例えば、床はナラの無垢材を使用し、可動式間仕切りや収納部の建具は職人がきっちりと仕上げる。塩化ビニルの床は修繕時に全て剥がして捨てることになるが、無垢材なら表面を削って長く使うことができ、経年変化が価値の低下ではなく良さへつながる。
「選んでよかった」と思ってもらえるかどうか
長く使える素材を用いたリノベーションはイニシャルコストがかかる。それでも素材にこだわるのは「施工性がいいものを使いたいという要請は強くあるが、そうじゃないやり方を模索している。クルリブは小さい取り組みだが積み重ねていけば経済的にも、持続可能性の面でも合理的と言えるはず」だと考えるからだ。加えて、「リノベーションとともにしっかりとした維持管理も行い、10年後、15年後に住まい手であるお客様が『選んでよかった』と思ってくださるかどうかが一つの指標となる」と話す。
自社ビルのリノベーションも、南堀江と同じgrafとのチームで手掛けた。20年前に取得したビルで昨期大規模改修を行い、同社は1階へ移転。「原点を残したい」と設計担当者が資料を基に当初と近似したタイルを探すなど仕様にこだわった。ビルの原点を知り、良いところを残すことや、使い手にとってどういうあり方がよいかを検討した改修だ。「最初は小さなオフィスで創業されたテナント様が段階的に広げられ、弊社の移転に伴い7階のワンフロア全体へ拡張移転されました。創業者様のたゆまぬ歩みやご発展を拝見でき、今も大切に使っていただけて本当に嬉しくて」と加納さんは笑顔を見せた。
住まいに関わる全ての人が参加して「ともに育てる」
「お子さん、何歳ですか?」「大きくなりましたね」と小さな子どもを連れた入居者同士が井戸端会議を開く。そんな様子を想像して「LIB MARK minamihorie」のエレベーターホールには作り付けのベンチが設置されている。少しの間、手に持った荷物を置いておけるカウンターもあり、自然と交流が生まれることを促す設計を取り入れた。
加納さんが担当してきた賃貸集合住宅の中で、入居者同士の交流が多いところほど騒音などのトラブルが少ないという。現在、大阪市内の集合住宅で共用部のリノベーションを計画しており、「集合住宅内のコミュニケーションが活発になるようなしくみを備えた共用部をどうつくるか」を検討している。
新築かどうかにかかわらず、「住まいづくりにはオーナー、設計、施工、管理、住まい手、地域まで全ての人が考えながら参加し、一緒に考えて育てていくことが重要」と加納さんは語る。「リノベーションは建物全体、住まう人自身の暮らし、地域がどうあって欲しいかまでを考えるきっかけとなる。賃貸住宅が入り口となって、建築そのものへの愛着が育つような循環をつくっていきたい」と考えている。
関連制度のご案内
※1 大阪市ハウジングデザイン賞
住宅とまちとの関係を重視した都市型住宅、既存建物を有効に活用し優れたリフォームやリノベーション等が行われている住宅、維持管理が適切に行われ、住宅や住環境が良好に保たれている住宅など、提案型住宅やまちと深く関わる住宅を表彰しています。
※2 大阪市子育て世帯等向け
民間賃貸住宅改修促進事業
子育て世帯や新婚世帯の市内居住の促進と民間賃貸住宅ストックの有効活用を図るため、子育て世帯等の入居に資する改修工事を行う民間賃貸住宅のオーナーに対して、改修工事費の一部を補助しています。